といふわけで

目立たぬように はしゃがぬように 似合わぬことは無理をせず

アンタッチャブルが漫才してた。俺は泣いた。

 

 

テレビをつけてびっくりした。あの「アンタッチャブル」が漫才をしてたからた。

 

11月29日放送のバラエティー番組「全力!脱力タイムズ」ゲストにはアンタッチャブル柴田英嗣と、女優・モデルの新木優子が登場した。

 

番組終盤、新木ちゃんが好きな芸人としてアンタッチャブルを挙げ、

「最近漫才を見る機会が少なくなって残念。せっかくだから見たい」とねだる。こうして漫才を披露する流れに何かを察した柴田さんは「怖い怖い」と警戒した。

 

というのも、過去にもこうした流れがあって、そのたびにバービーとか、ハリウッドザコシショウとか、コウメ太夫と即席コンビでひでぇ漫才を披露させられてきたからだ。

 

そんな中、登場したのは、相方のザキヤマに扮した俳優の小手伸也だ。ドラマ『コンフィデンスマンJP』でプチブレイクしたと思ったら独身偽装不倫とかなんかでプチ叩かれてた小手伸也だ。

 

2人で漫才を始めるも、途中でくりぃむしちゅーの有田からのダメ出しを受け、小手さんがいったんステージから退出。可愛そうな小手伸也。もう一度漫才をやり直すことになったのだが、そこに登場したのはザキヤマだった。本物のアンタッチャブル山崎弘也だった。

 

そりゃ柴田も驚くだろうけどこっちも仰天だよ!!「エーーーッ!!」って漫画みたいな声出たわ。とかなんとか言ってる間にM-1でお馴染みの「Because We Can」が流れ、あのM-1でも披露したファストフード店の漫才が始まった。

 

アンタッチャブルは2004年のM-1グランプリで、漫才会における「西高東低」を根底から覆した。2003年敗者復活から最終決戦にまで進出したものの、フットボールアワー笑い飯という二大巨頭に敗北。しかし翌年、優勝候補のプレッシャーなんのその、ぶっちぎりで優勝した。

 

アンタッチャブルは当時のM-1史上、初めての関西以外の出身コンビによる漫才コンビだ。大阪以外の事務所に所属する芸人が優勝するのも初めてだった。

 

私がお笑い学の名誉教授と崇める、浅草漫才協会会長ナイツ塙寛之氏はこう語る。

 

関西は(野球の投手でいうと)一六〇キロ投げるやつがゴロゴロいる世界です。東京だと一五〇キロぐらいでもすごく早く感じますが、関西では殆ど目立ちません。

関西弁というフォームでなければ一六〇キロの壁は突き破れないのかも知れませんね。

もちろん、例外はいます。M-1歴史上の中で、関西弁以外で一六〇キロを投げたのは唯一、アンタッチャブルでしょうね。

 

漫才をする上で関東弁は不利であると私は考える。それは決して私自身が関西出身だからという依怙贔屓による解釈ではなく、東京の日常言葉が出来上がってくる過程を考えればわかることなのだ。

 

東京は西の大都市に比べ地方から移住してきた人間が非常に多い。なので各々の地域の言葉が混ざり合った結果、「日常生活を送る上で最も効率的な言語」が発展していった。その結果、本来の江戸弁から角を取り、威勢をなくす結果となった。人類が木の上から陸に生活の場を変えた際に、自ずと尻尾が退化していったように。

 

漫才をする上で、東京言葉は感情を載せにくい。ということは勢いが出ない。関西弁であれば「なんでやねん!!」一つで済むところをいくつも言葉を使わなければ表現できなくなる。言葉を多く使わなければいけないということ。それは感情が客席に到達する道のりを遠回りさせる。

 

アンタッチャブルの漫才は何よりも柴田のツッコミがいい。柴田は東京の言葉でありながら、その道程を最短最速でぶっ飛ばしてくる。当時、お笑い界を席巻する「関西弁」の大海原に、一人「べらんめぇ口調」の江戸っ子(静岡出身だけど)が殴り込みをかけた。

「てやんでぇ!!ちくしょうめ!!」その響きは江戸落語に出てくる大工の棟梁が啖呵を切るがごとく、威勢がよく歯切れがいい。関西の落語を「上方落語」と呼ぶのなら、彼らの漫才は「江戸漫才」という新たなスタイルを生んだと言ってもいいかもしれない。

 

負けず劣らずザキヤマも化け物だ。ザキヤマはデレにでも突っ込ませる。ザキヤマを対面に立たせてしまったのなら、誰もがツッコミに回らざるを得ない。どんなツッコミも丸呑みし、更に大きなボケで押し返す。

 

優勝当時は柴田のほうが評価されていた風潮があったが、近年のバラエティ番組でのザキヤマの活躍っぷりは言うまでもない。相方柴田がでなくなったことで、水を得た魚の如く、首輪の外れた狂犬のごとく、お笑い界を喰い散らかしてきた。

 

この十年、最前線で暴れ続けてきたザキヤマと影で耐え忍んできた柴田。二人の邂逅は見るものに笑いと涙を与える。実際に俺は少し泣いた。

 

この二人が10年の時を経て、現在のお笑い界にどのような波乱を巻き起こすのか。ファンとしてはアンタッチャブルではいられない。